松木村

という村が昔あったのですよ。足尾の渡良瀬川のそばに。
一番栄えてたときで40戸という小さな村でしたが、
今はもう廃村になってしまい、地図上には存在しません。


発端は、例の足尾銅山の事件です。
足尾銅山といえば鉱毒田中正造で知ってる方が多いと思いますが、
もっと大きな影響を与えていたのが、銅精錬所の煙突から出た亜硫酸ガスです。
これの影響と、さらに大火にみまわれたこともあり、
周囲の山の木々は枯れ、はげ山となってしまいました。


そして、その亜硫酸ガスの影響で、農業によって生計を立てていた松木村は、
収穫がどんどん減っていき、ついに無収穫となってしまいます。
困窮し、国に対し「助命嘆願書」を提出することに。
その嘆願書の扱いがどうなったかは忘れてしまいましたが、
結局煙害はおさまらず、作物の育つ村ではなくなってしまい、
一人一人と村人は去っていき、そして廃村になってしまいました。


現在の松木村跡一帯は、銅精錬所を操業していた古河グループが買い取り、
国土交通省古河グループ自治体などの事業として、
植林作業が続けられています。
そのため、一帯は関係者以外立入禁止となっているのですが、
今回参加した社会医学セミナーは、厚生労働省がバックアップしており、
現場も国土交通省の方々が案内してくれたため、立ち入ることができました。


現在、松木村の跡地には、墓が3つ並んでいるだけでした。
あたりは一面の草原で、住居の跡などは一切見当たらず。
墓標には何と刻まれているのだろうと見てみましたが、
すでに磨り減っていて読むことは不可能でした。
花は、供えられていました。


その風景を見たとき、なんともいえない気持ちが去来しました。
まぁこんなマジな話をここでするのは、どうかなとは思ったのですが。
ひとまず、どこかに書き留めておきたい気分だったので。
そんなわけで、ちょいと書いてみた次第です。